食器棚。

うちの母親は九州南部の出身で食器棚のことを水屋と呼んでいた。今日はそんな食器棚にまつわる関係の無いお話。


僕と同居人の朝は軽快な愚痴から始まる。そして今朝も例にもれず鈴の転がる軽やかな音がする。大正生まれのレトロな鈴かもしれないが。


「この部屋は不衛生じゃな」


今日の同居人はおじいちゃんだった。朝一番から台所に立ち僕に聞こえるような鈴がなる。不衛生とはひどい言われだ。台所を使った後ピカピカになるまでシンクを磨く僕の本来の同居人が僕を鍛えてくれたように、僕も常に台所には気を使っている。水回りは綺麗にしておかないと身体を壊すような気がするし、風水的にもそれがよいと信じているからだ。


「洗った食器を新聞の上に置くなんぞ、不衛生じゃの」

致命的なワンルーム仕様。

この部屋は一般的なワンルームで玄関をあけてすぐの廊下が台所を兼用している。単身者向け用の部屋なので、台所にはひとくちだけ電熱の火元があって(それはもちろんIHとかではなく、黒い鉄板が熱くなる仕組みのアレだ)いずれ写真を撮ってアップしようと思うがそれはまた別の機会に。シンクは「フライパンをぺたっと置けない」くらいの容積で、洗い場に食器を溜め込むとうんざりしてしまうためすぐに洗う癖を心がけている。

その台所スペースには食器を置くスペースがない。部屋に付属していた冷蔵庫のスペースを電子レンジで使い、その上にも鍋やらフライパンを置いているのだが、正確にはその場所は廊下だった。床に直置きではないにせよ扉のない場所に食器を置くというのは、確かに許しがたいのだが、如何せん食器棚がない。

その前に、水きりトレーの場所すらないのだ。
最初の同居人が言っていた言葉を思い出す。


「生活感を出さない!なぜならここはオフィスだから!」


どうでもよいと考えている事には基本的に賛同、と決めている僕だったがその生活感のないオフィス仕様の部屋という響きには全面的に賛成をした覚えがある。ただ生活感のない部屋をいつまでも維持するのは非常に難しい。その状況をキープしたいのなら、そこでの生活を止めるしかない。

水切りトレーだけではなく、この部屋には置く場所がないという理由で存在しないものがたくさんある。テレビもない。こたつもない。ストーブは禁止されているようなのでない。これは別件だがオフィスなのにシュレッダーもない。そして、食器棚がない。